こんばんは、ツクシです。
日本政府は昨年4月よりデジタル市場競争会議の議題として、「モバイル・エコシステムに関する競争評価」を話し合い、昨日その最終報告を行いました。
この最終報告は首相官邸にて公開されており、またすでに国内外の報道機関によってニュースとなっているのですが、その内容に疑問や問題視的の声も多いです。
そこで今回は、「モバイル・エコシステムに関する競争評価」の最終報告の内容と何が問題なのかを解説いたします。
セキュリティ専門家不在
まずデジタル市場競争会議とは何か?という話ですが、政府の発行している資料からざっくり説明すると「変化の激しいデジタル市場を政府が競争促進する」会議です。
この言葉だけ聞けば特段問題のあるようには思えないのですが、この会議はたった12人で行われており、スマホのセキュリティに関連する専門家がいない事が重大な問題点と言えるでしょう。
12人の内訳は半数の6人が大臣、1人が公正取引委員会、残り4人が経済学・法学・システムデザイン・工学の教授、最後にソニーサイエンス研究所の社長となっており、偉い人が集まっているだけに見えますね。
資料最終ページに「ワーキンググループ」なる14名の名簿がありますがスマホのセキュリティ専門家やアプリ事業者はいませんでした。
そして最終報告でデジタル市場競争会議が打ち出したものは下記の7点。
- OSやブラウザ等の仕様変更等
- アプリストア関係
- ブラウザの機能制限
- プリインストール、デフォルト設定関係
- データ取得、利活用
- OS等の機能へのアクセス
- ボイスアシスタント、ウェアラブルに関するその他の懸念
この中で特に今後AppleとGoogleが日本政府と争う事が予想される「2.アプリストア関係」について解説いたします。
高い手数料と対処
「2.アプリストア関係」で話し合われた内容は下記の4点。
- 決済・課金システムの利用義務付け
- アプリ内における他の課金システム等の情報提供、誘導等の制限
- 信頼あるアプリストア間の競争環境整備
- クローズド・ミドルウェア
まず「2-1.決済・課金システムの利用義務付け」ですが、ざっくり説明すると「手数料が高いしAppleやGoogle経由でしか課金できないのは不便」というもの。
最終報告でAppleとGoogleの手数料15〜30%について「手数料が高止まり」と説明していますが、調べてみると他の主なデジタルコンテンツ決済もほとんどが30%基準である事がわかります。
政府はこの手数料の解決策として手数料そのものは据え置き、自社の決済・課金システムの利用義務付け禁止とし、フリーライドとアウトリンクを無償で認容することを義務付けるべきである、と「2-2.アプリ内における他の課金システム等の情報提供、誘導等の制限」で説明しています。
フリーライドとはアプリ内課金をAppleやGoogleのシステムを通さず、自社システムなどで処理して手数料を回避する行為で、アウトリンクはアプリからブラウザの課金ページに誘導して手数料を回避する行為です。
AppleもGoogleもフリーライドとアウトリンクを基本的に禁止しており、その理由は純粋に許すと最悪利益が全く無くなりストアを運営・維持できなくなるからでしょう。
政府はコレの無償許可を義務化すべきとしており、各ストアへの利益が激減してパフォーマンスの低下、例えば審査などに非常に時間がかかるようになってしまう可能性なども十分考えられます。
第三者アプリストア
3つ目の「2-3.信頼あるアプリストア間の競争環境整備」では、AppleとGoogleが公式アプリストアのみのアプリ配信を行い市場競争を阻害しているとしています。
基本的にiOSではApp Store、AndroidではGoogle Play Storeでのみアプリをインストールでき、それ以外の方法はiOSだと脱獄またはTestFlight、Androidだと「提供元不明のアプリのインストール」を利用する事になります。
政府はそうした方法ではなく、まず第三者が運営する新しいアプリストアをインストールできるようにし、そのアプリから他のアプリをインストールできるように義務付ける規律を導入すべきとしています。
AppleやGoogleがアプリを自社ストアからしかダウンロードできないようにしているのにはもちろんワケがあり、一番大きな理由は危険なアプリインストールを未然に防ぎOSの安全性を保つ事でしょう。
アプリはスマホ上でユーザーの様々な情報にアクセス可能で、画面上は普通でも隠れて悪意ある攻撃を行うこともでき、そういった悪意あるアプリを審査で落とす事でスマホの安全を保っています。
第三者の運営する新しいアプリストアを解放した場合、仮にAppleやGoogleよりも審査が緩かったり経験が足りず危険なアプリを見抜けずリリースした場合、スマホが危険に晒される可能性は十分考えられますね。
しかもこの第三者はフリーライドとアウトリンクで利益が全然入らない可能性もありますし、上記のような事件が発生した場合にはAppleまたはGoogleから巨額の賠償請求がされるのは火を見るよりも明らかです。
普通の経営者なら、こんなリスクばかりでまったく利益が生まれなさそうな事業に手を出したりはしないでしょう。
最後の「2-4.クローズド・ミドルウェア」はAndroid限定のちょっとした問題なので説明は省きますが、「2.アプリストア関係」がいかに頭でっかちで表面的な内容で本質を捉えていないのかわかるかと思います。
少なすぎるサンプル
ちなみに資料で度々アプリ事業者のアンケートが引用されるのですが、iOSアプリを公開している253の事業者、Androidアプリを公開している241の事業者というヒアリング数が少なすぎる問題もあります。
日本を拠点にiOSアプリを公開している事業者はざっくり70万アカウントあり、アンケートをとった253の事業者は日本全体の0.36%程度にしかならず、「Appleの説明とは一致しない結果」と豪語している部分では素直にドン引きしました。
残念ながらAndroidの日本デベロッパー数の公式値は見つけられませんでした。
0.36%の意見とは、例えば「1クラス30人10学級の〇〇高校」の生徒総数は900人ですが、この中から3人選んで「好きな食べ物」を聞いて「〇〇高校の生徒が好きな食べ物」と言うくらい無茶です。
この0.36%という極端に少ないサンプルのアンケートを引用し、業界全体像や業界意見として参考にしている時点で意見が偏るのは当たり前で、それをさもAppleの嘘のように書いたのは一体12人の内の誰なのでしょうか?
まとめ
会議の半数が議員、スマホセキュリティ専門家不在、AppleとGoogleのストアにお金の入らない義務の強制、第三者アプリストアの許可によるセキュリティリスク、少なすぎる意見サンプルと「2.アプリストア関係」だけでも酷いですがあと6つもあるんです。
読みたい人向けに政府が発行している資料のURLを下記ボタンに用意していますので、気になる方は192ページにも及ぶ大作をご覧ください。